中野敏男さん

(東京外国語大学・名誉教授)

 幼保無償化制度からの朝鮮幼稚園除外は、「差別の禁止」を謳う子どもの権利条約に違反し、教育基本法が保障する「教育の機会均等」を奪うものだ。過去にも朝鮮学校出身者の大学入学資格問題や高校無償化問題に取り組んできた大学人として、それは見過ごすわけにはいかない。
 民族学校や外国人学校で、それぞれの国の歴史や文化、言葉が教えられるのは当然だろう。各学校が行う教育の自主性は尊重されてしかるべきだ。だが、戦後日本では、一貫して在日朝鮮人の民族教育権が侵害され、朝鮮学校が排除の対象となってきた。この歴史を今こそ断ち切らなければならない。
 戦前に東アジアで帝国主義戦争、植民地戦争を起こした日本では、現在、「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍晋三、麻生太郎が総理、副総理を務める長期政権が続いている。彼らの祖父は、植民地主義の実行者であり戦後日本の為政者であった岸信介と吉田茂。その人脈の系図を見ると、持続する権力の構造がとてもよく分かる。
 東アジアでの戦争と植民地支配の責任はいまだ未精算で、それが今の徴用工問題や日本軍「慰安婦」問題につながっている。問題の根底には「継続する植民地主義」が横たわっている。在日朝鮮人に対する日本政府の差別政策も根は同じだ。問題を決定づけている朝鮮半島の分断、朝鮮と米国の戦争構造を一日も早く解消しなくてはならない。
 日本の戦後政治-経済体制は朝鮮半島の分断に依存して存立してきた。日本は朝鮮戦争特需で経済発展を成し遂げ、今日も戦争を前提とした米国の基地国家として日米同盟を強化している。だからこそ、その基礎が揺らぐと「防衛」を強調し、「北朝鮮危機」や国民の嫌韓の風潮を煽る。このようにして日本国民の人権感覚は麻痺し、ヘイトスピーチが公然と行われるほどに在日朝鮮人への差別と排除の意識は持続してきた。
 今回の幼保無償化問題を通して、多くの日本人が目の前で起きている人権侵害に気付いてほしい。在日朝鮮人差別を直視することで、平和主義、民主主義を標榜してきた日本が何を犠牲にしてきたのか気づくはずだ。「戦後日本」の構造に問題意識を持ち、日本社会に厳然と存在する差別問題に対して声を上げられる人が増えるように、働きかけていきたい。

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© 幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会

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