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高野孟さん

(ジャーナリスト)

 まず当たり前のことではあるが、子どもには何の罪もないということをはっきりと言っておきたい。それは幼保無償化の問題に限らず、すべての事柄に通じる大前提だ。世界中で大人たちによるさまざまな対立が起こっているが、そのことについて子どもたちにはいっさいの責任はない。「子どもをしっかり育てる」ということは人間として当たり前の態度だ。日本政府が国家間の対立や外国人だからということを理由として子どもたちに害を及ぼすような措置をとることは言語道断、人道上の罪である。
 日本が「明治時代」から継続して行ってきた教育の本質は、国家を支えるための「強い」人材を育てることを最大の目的とした「富国強兵」路線。グローバル化が進む日本社会の中で、致命的に時代遅れの教育だ。朝鮮の子どもたちに限らず、今ではいろいろな国の子どもたちが日本で育ち、多種多様な社会がとっくに訪れているのに、教育の根本原則はいまだに「明治以来」の国家教育、国家の方針に国民をはめ込むための原理から抜け出せていない。外国人はその原理から外れているから不当に差別される。
 このような排外主義的な国家教育をどう壊していくのか、変えていくのか。私が外国人学校差別に反対し、「幼保無償化100万人署名運動」に賛同するのは、もちろん朝鮮の子どもたち、外国の子どものたちのためでもあるが、何よりも日本のこどもたちに不幸な思いをさせたくないという思いが強いからだ。日本の教育が多様性を受け入れ、子どもたちがそれぞれの違いを尊重できるよう育つためにも、幼保無償化問題にひとりの日本人としてしっかりと取り組んでいかなければならないと考えている。
 現在、日本の主要なメディアでは偏見に基づき「北朝鮮」のことをことさらバッシングする一方、在日朝鮮人や朝鮮学校を取り巻く差別問題についてはほとんど取り上げられない。それは「意図」したものではなく「無知」の産物である。
 在日朝鮮人が日本に住むようになった経緯、日本がかつてかれらに犯した罪、そして現在も長く引きずっている歴史を、今のメディアは何も知らないし、知ろうとしない。「歴史に対する無知」ともいえるこの問題はヘイトスピーチなどに形を変え在日朝鮮人をはじめとした外国人への差別を助長するだけでなく、日本社会の問題としてすべて跳ね返ってさまざまな弊害を生んでいる。そのことをメディアや日本人はしっかりと認識するべきだ。
 署名は権力のない者たちが自らの意思を行政に突きつける民主主義の有力な手段だ。街頭署名活動は道行く人たちに問題意識を持たせ、対話を通じて世論を喚起し協力者を増やす絶好のチャンスでもある。外国人への不当な差別に反対する「意思」をより多く集めよう。

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